私の宝物、それは感性である。異常肉体として生まれ落ちた瞬間、緊急手術故に我が聴覚の世界はたったの1日で全てを瞳に託し、逝った。我が瞳は帰らぬ耳を嘆く未亡人のようであった。幾つも親に連れられた親戚の集まりや行事でのわけもわからぬ会話の中で、私は永遠に沈黙してきた。ただひたすら手の動作、表情の移ろい、光のゆらめきとありとあらゆる視覚世界を幼児のように見つめてきた。もし耳さえあれば皆と対等に話せるのにと嘆きながらも、私の静かなる世界は徐々に作られていった。ひんやりとした沈黙の土、無限大な妄想の海、漂う思考の雲、そして、眩しい感性の太陽である。感性は目から生まれ出て、太陽のように、我が暗黒で孤独な世界を暖かく照らした。この太陽という宝物のおかげで、僕は一人でずっと面白いものをじっくり妄想する人間になれたと思う。そして僕は自分の感性を大切に守りたいと思う。でも時々寂しくなるなぁ。夕暮れの水面に映る黄金の涙がそう物語っている。