僕は珈琲が好きだ。あの爽やかさと酸味と苦味と甘味が共存しあっているような、あの風味が好きだ。香りも人を落ち着かせる。 そんな僕が行きつけのとある喫茶店に入ると、そこには若い女性が一人、座っていた。彼女の所作がとても美しく、僕は見惚れてしまっていた。 「何か」 そう聞く彼女に僕は言う。「いえ」 あなたに見惚れていました、なんてそんなことを言えるはずもなく、僕は彼女の前に座って一杯のコーヒーを注文した。 いつもはコーヒーを飲みながらパソコンを開き仕事を進めるのだが、いかんせん今日は調子が上がらなかった。コーヒーを啜っても、あの豊かな香りをかいでも一向に気持ちは落ち着かない。それどころか、胸は高鳴るばかりだった。