亡き祖父の手に馴染んだカメラは、いまや巻き上げが思うようにいかず、幾重にも光景が重なって記録される。失敗のはずだった写真は、時の流れと記憶の断片を、予期せぬかたちで一枚のフィルムに映し出した。それはきっと、祖父と私の存在そのものだ。 亡き祖父は、一度きりのシャッターの重みを知っていた。私はそのカメラを受け継ぎながら、彼と自分の時間が重なる瞬間を探している。多重露光のなかに現れる畑や空、山並みは、祖父の過ごした日々と、今この場所に立つ私の記憶が偶然に交わる「半分の世界」だ。 巻き戻りきらない記憶のなかで、彼と私は通り過ぎる風景に溶け合ってゆく。「偶然の軌跡」に導かれて、私の手のひらは祖父の温もりと共にあり、「光の断片」は二人の人生を静かに写し続ける。失敗写真が語るのは、受け継いだ想いと、二人の交差する奇跡の瞬間なのです。
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