水たまりに映る団地群。温かな午後、雪が溶けアスファルトの窪みに張った水面は、厚い雲越しの光を受けて静かに都市を裏返す。地面に描かれる団地の反射は、いっそ現実よりシャープで、抜けるような明るさと鋭さを帯びている。見慣れた水平線も、窓も、柱も、すべて天地を逆にして並ぶその景色は、どこか夢の外側の記憶のようだ。自分が今、何を見ているのかわからなくなる瞬間。無数の生活が重なる団地は、そのまま水たまりの中に沈み、午前と午後の間の曖昧な揺らぎに漂う。足元の泥に布切れが落ちていても、波紋が映りをわずかに歪めても、「逆さまの街」はそこに立ち上がる。 水面越しの街は儚い。けれど、その一瞬こそが、日常のひとコマをまるで裏返しにして見せてくれる小さな裂け目なのかもしれない。自分の住む場所も、心の景色も、時々こうやってぐるりと方向を変えてみたくなる。
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